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コラム

実践!木村一心の台湾でまちづくり。第1回リノベーション編

台湾に移住して、現地のディベロッパーに設計士として所属しつつ、 台中にてアートギャラリーを運営している木村一心 (きむらいっしん) さん。

台湾各地で手掛けた物件と連携し、展示やイベントを開催される一方、設計だけでなく建築の運営にまで関わり、国際交流によるまちづくりに挑戦されています。

そんな木村さんの目を通して触れる、台湾の建築、アート、デザイン。第一回目は台湾のリノベーションと地方創生について、ご紹介します。

木村一心自己紹介写真

初めまして、木村一心と申します。台湾に7年住み、まちづくりに携わる仕事をしています。

リノベーション、歴史建築、地方創生などをテーマに、自身の体験を踏まえながら、台湾のまちづくりについて紹介していきたいと思います。第1回はリノベーションについて。よろしくお願いします!

 

学生時代に出会った台湾の廃墟

2011年、私が大学で建築を学んでいた頃、研究室のメンバー数人で先生のプロジェクトを手伝っていました。

そのプロジェクトは、台湾の台中市にある廃墟を改装して商業施設にするというもので、開発は范特喜微創文化(※1)という台湾の現地ディベロッパーが行い、設計を建築家である母校の先生(※2)が担当しました。

チームは日本と台湾、近い距離で意思疎通する必要があったため、学生何名かが夏休みを利用して現地に向かい、数カ月滞在し現場管理を行いました。

綠光計畫/計画時のイメージ図

綠光計畫/計画時のイメージ図(提供:范特喜微創文化)

 

初めての台中/商業・文化施設の誕生

建物は約70年前に台中州水道局の社員宿舎として使われていて、100mほど奥行きのある敷地に12棟の住居が配置されていました。

20年ほど放置されていたので、屋根は半壊、植物は侵食し、壁も崩れる可能性のある危ない状態でした。

日本から持ち込まれた設計図には、かつての間取り(壁)をなるべく残しながら、それぞれ独立した12棟の建物を自由に行き来できるよう新しい動線を組み込み、建物の上部まで散歩できるよう、大きなデッキを設けるアイディアが記されていました。

綠光計畫(※3)と名付けられたその施設は2013年に完成し、当時民間会社が行うリノベーション事業として画期的な取り組みだったため、台湾中から注目されました。

綠光計畫/建設中の写真(上)と完成後の写真(下)

綠光計畫/建設中の写真(上)と完成後の写真(下)

 

台湾の会社に入社/台湾移住

綠光計畫が完成して、出来上がった建築を見るために台中に向かいました。

施設はこれからいよいよ運営開始というタイミング。商業施設として既に複数のテナントが入り、ライブやマーケット、レクチャーなど様々なオープニングイベントが仕掛けられていました。

その時わかったのが、施設内でイベントを主催しているのが、ディベロッパーである范特喜微創文化だったことです。

范特喜は、条件のいい廃墟を見つけ、自ら改装し、適切なテナントを誘致し、完成後のプロモーションまでを一貫して行う会社でした。

建築の設計というところだけに目を向けていた当時の私は、その会社の取り組みにとても興味を持ち、大学を卒業後すぐ、范特喜に設計士として入社することを決めました。

写真は当時の同僚たち。中国語をまったく話せない私を雇ってくれた社長にはとても感謝しています。

范特喜微創文化 当時の同僚たち

范特喜微創文化 当時の同僚たち(左から二番目:木村、右端:社長の鍾さん)

 

暮らしながら感じた街の変化

2011年以前、綠光計畫がまだ企画段階だった頃、敷地周辺はナイトクラブやバーが立ち並び、観光する場所や食事する場所はほとんどない雰囲気の悪い場所でした。

また廃墟だった頃の綠光計畫は近寄り難い場所として認知され、街に良い印象は与えていませんでした。このプロジェクトが進むのと同時期に、范特喜は同じエリアに複数の物件の開発を行います。

綠光計畫完成の前後1~2年の間に十数件の商業拠点を作り、エリア一体を観光スポットとしてプロモーションしました。

以降この戦略が街に与えた影響は大きく、その後は自然発生的に、若者が経営するお店や新しいリノベ商業施設などが次々と建設されていき、現在は台中で最も人の集まるおしゃれスポットとして賑わっています。

ものすごいスピードで建物が増え、人口が増え、インフラが強化されていく様子を見ながら過ごしたことは、既に街がある程度整えられている日本や台北では体験できない貴重な時間だったと感じています。

台湾の会社で最初に学んだこと/行政と行うリノベーション

台湾の会社で最初に学んだこと/行政と行うリノベーション

 

台湾の会社で最初に学んだこと/行政と行うリノベーション

リノベーションに取り組むにあたり、入社後はまずOTとROTという言葉を覚えました。

OT(Operation 運営 Transfer 譲渡)とは、政府が所有する建物の運営を民間業者に委託し、契約期間が過ぎたら返却するという制度です。

またROT(Reconstruction 再建 Operation 運営 Transfer 譲渡)というのは、政府から民間業者に建物の改装から運営までの権利を授与するというものです。

私たちが担当した綠光計畫は、ROTという条件のもとプロジェクトが公募され、范特喜が獲得したという経緯になります。

他にもBOT(Build 建設 Operation 運営 Transfer 譲渡)という政府の土地に新設の建物を建てて運営するという制度もあり、一見リノベとは関係ないように思えますが、例えばROTで改装した建物の敷地が広大で、余った土地にBOTを利用し、付属施設を建設するという方法も検討に入れてプランを立てることもできます。

台北の華山文創園区(※4)、松山文創園区(※5)などの大きな施設はこのようなOT、ROT、BOTの組み合わせで計画されています。この制度で権利を得た建物(土地)は比較的リーズナブルな賃料で運営することができ、歴史的な建物や文化的に価値のある場所を民間業者に積極的に経営してもらうための政策となっています。

華山1914文化創意産業園区の建物(提供:lyneさん)

華山1914文化創意産業園区の建物(提供:lyneさん)

 

現在取り組んでいるプロジェクト/民間で行うリノベーション

最近で一番新しいリノベーションへの取り組みは、台中市にある篤行1913(※6)というプロジェクトです。

低所得者層に向けて貸し出すアパートとして1966年に建てられました。廃墟化していたところを再生させ、現在商業・文化施設として運営しています。

この建物の所有は政府ではなく民間です。よってROTやOTなどの制度はなく、民間同士の交渉でプロジェクトを進めていきます。

台湾には、民間が所有する廃墟もたくさんあります。街の治安を悪化させている物件や、歴史的に保存する価値のある建物は、政府からの補助を受けられる場合があり、この建物も改装費の一部をサポートしてもらっています。

建物を改装するのは、時には新築と変わらないくらい(それ以上になることも)お金がかかり、メンテナンスも大変です。

また古い建物は、低層物件がほとんどのため、効率よく収益(テナント収入等)をだしていくのが難しいです。これまでの経験から、リノベ事業を行うのは中々大変なことだと実感しています。

政府が様々な補助案を設けてくれることはとても心強いです。

篤行1913/改装前(上)の写真と改装後(下)の写真

篤行1913/改装前(上)の写真と改装後(下)の写真

 

自分でもやってみた/個人で行うリノベーション

政府や企業が関わるリノベーションの例を紹介しましたが、古い建物を個人で修理・清掃して活用するケースも台湾ではとても多いです。

台湾の街には若いオーナーさんが経営する古い建物のお店がたくさんあります。私も6年前に小さな廃墟空間を改装して「綠光+marüte」(※7)というアートギャラリーを始めました。

台湾は街のあちこちに電気屋さんや水道屋さん、小さな工務店など個人経営の店がたくさんあり、若者でも気軽に相談・発注できる環境があると感じています。

また台湾の友人に訪ねると誰かしら知り合いの業者さんを紹介してくれ、そんな業者さんも親しみやすい人が多く、ある程度デザインに関心がある人は、彼らと直接話し合い、自ら素敵な空間を作っています。

綠光+marüte/改装前と改装後の写真

綠光+marüte/改装前と改装後の写真

 

以上、この度のコラムでは、台湾ではどんな人たちがどのようにリノベーションを行っているかを簡単にご紹介させていただきました。

また今回、台中のとあるエリアでの取り組みに焦点を当てましたが、次回は、「旧市街地と歴史建築」をテーマに、台中市全体の街の様子や歴史を紹介していきたいと思います。最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

 

参考:

※1范特喜微創文化
https://fantasystory.com.tw/index.php

※2 ARCHICOMPLEX
http://www.archicomplex.com/

※3綠光計畫
https://www.facebook.com/GreenRay.2013

※4華山1914文化創意產業園區
https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/index

※5松山文創園區
https://www.songshanculturalpark.org/

※6篤行1913
https://www.facebook.com/breakthrough1913/

※7綠光+marüte
https://www.isshin-taiwan.com/gallery/

 

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木村 一心

木村一心 1988年茨城県生まれ。東京理科大学大学院 理工学研究科 建築学専攻卒。台湾に移住して、現地のディベロッパーに設計士として所属しつつ、アートギャラリーを運営する会社を経営しています。

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