台湾・高雄にデザートスタジオ「日食生活」を構え活動する江舟航(ジェイミー・ジャン)。
台湾全土の学校やイベントで講演やワークショップ、料理講師など精力的に活動中です。
2017年の日本のフェスイベント『森.道.市場』に出店を機に、日本との交流も開始。スイーツや料理にとどまらず、南台湾を中心に台湾の文化や見どころなどを伝えています。
そんなジェイミー・ジャンの目を通して触れる台湾。第2回鹽埕・後編です。
前編はこちらから
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古き良き市場で味わう新しい味
高雄港の発展とともに急速に発展を遂げた鹽埕(以下塩埕/イェンチェン)。
それから時が流れ、塩埕から都市機能が移転されたことをきっかけに人口の流出が始まった。
高雄の中で百貨店が一番多く立ち並び、劇場や市場なんかが集まっていた塩埕の移り変わりは、「華やかで輝いていたけれど、時とともに色あせていく写真」のようなものだっただろう。
今どきの人々の消費行動は昔とは違っていて、昔ながらの市場にいって食材を買うなんてことはなくなり、屋台での販売も、お店の数もどんどんと減ってきている。
けれどこの数年塩埕の市場の中で若者たちが創意工夫を凝らした革製品のお店や、スイーツショップ、カフェなどをはじめたりしていて、昔ながらの市場に新しい風を吹かせはじめている。
実はぼくも、昨年この市場のそうしたスペースで「江家の家庭料理」を提供するプライベートレストランイベントを2度おこなっている。
お品書きは「おばあちゃんのお漬物」「おばさんの『肉圓』」、「母さんの四神湯」そして故郷の野生のお茶や野生の愛玉ゼリー。
天国のおじいさんが食べたら大喜びしそうなメニューだ(笑)
その後、ぼくがイベントをしたスペースには「空腹虫」(コンフーチョン)が入居した。
空腹虫は、伝統的な台湾料理を軸にして多様な要素を組み合わせた創作料理を提供している。
高雄は海鮮がおいしいから、「蚵酥炒飯」(揚げ牡蠣のせチャーハン)は見逃せないメニュー。シェフは沙茶醬(サーチャージャン)を少し加えて味付けをしている。
豚肉を檳榔の葉で包んで油で揚げた「包葉仔」はとても興味深い組み合わせだし、そして何よりとても美味しい。
「辣炒饅頭」(マントウのピリ辛炒め)はお客さんからずっと人気の一品で、高雄ではよく知られた老舗で名店の「婁記饅頭」のマントウ(具なしの中華まん)を使っている。
高雄にも「銀座」がある!?
饅頭(マントウ)といえばセイロを連想する人もいるだろう。
五福四路の端あたりにはたくさんの竹用品や籐製品のお店が軒を連ねている。
セイロはこの辺りのロングセラー商品といえるわけだ。家庭用から業務用まで、主婦はもちろん調理師でも、大きいものから小さいものまで様々なセイロが販売されている。
台湾の家庭に必ずある「大同電鍋」のサイズに合うセイロだって手に入る。
ぼくが不定期で大阪のダイヤメゾンで開催している台湾料理教室で使うセイロもここで手に入れたものだ。
竹用品の店が並ぶエリアからそう遠くない場所に、ぼくがよく訪れる友人・邱(チュウ)くんのカフェ(民宿もあり)がある。
カフェのメニューの中で僕の一番のお気に入りは塩埕の「天池冬瓜茶」(ティエンチートングァチャー)の冬瓜糖を使った「銀座特調」(インズオトゥティアオ)。
ここの店のある区画は昔「高雄銀座」(ガオションインズオ)と呼ばれていた。
邱(チュウ)くんはそこから店の名前を「銀座聚場」(インズオジュウチャン)と名付けた。
ただ古い建物を改築して装飾を施したものではなく、相当熱心に研究されたつくりになっている。
彼のチームは伝統的な市場の中でマーケットやイベントを開催していて、若者をひきつけ、そしてこれまでの塩埕とは違った風情を感じさせてくれている。
悩ましいグルメ天国・塩埕
ひとつの地区においしいものが多すぎるっていうのは、長所だけれど短所ともいえる。
塩埕では何を食べようか決めるのが本当に大変なんだ。ぼくは高雄出身者は、みんな自分だけの「塩埕グルメリスト」を持っていると確信している。
ぼく自身は、麺好きだから、さっぱりしていて脂っこくない「阿財雞絲麵」(アツァイジースーミェン)とそれから「ゆでケンサキイカ」を頼んで、ほのかに甘酸っぱさのある「海山醤」(ハイシャンジャン)(※1)をかけて食べることが多い。
それで大満足のおいしい時間だ。
ちなみに実は知らない人が多いのだけど、「雞絲麵」の麺は鶏肉からできているわけじゃない。
細い麵線(そうめんに近い細い麺)を油で揚げている。インスタントラーメンの作り方と同じだ。
米のご飯が食べたいと思ったときは、「小西門燉肉飯」(シャオシーメントゥンロウファン)に行くことが多い。
ここでは昔ながらの「燉肉飯」(豚肉の角煮のせどんぶり)や「梅干扣肉飯」(カラシナと角煮の焼き蒸し肉どんぶり)以外に、寒い時には「魷魚螺肉蒜火鍋」(※2)を頼む。
この料理は台湾のオーソドックスな「酒家菜」(※3)だった。
在りし日、高級なサロン(社交場)が立ち並んでいた塩埕の古き良き味を思いながら味わうんだ。
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注:
※1海山醬:ケチャップ、味噌、砂糖、だし汁を合わせたたれ、海鮮によく合う
※2魷魚螺肉蒜:スルメイカ、豚肉の薄切り、にんにくの芽とサザエの缶詰を煮込んだこってりとしたスープ
※3酒家菜:「酒家」とは過去台湾での有力者や著名人らの交流や接待が行われた場所だった。提供される食事も高級で価格も高額だった。
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店舗情報
鹽埕第一公有市場
住所:高雄市塩埕區瀨南街141之7號
営業時間:店舗により異なる
空腹虫、婁記饅頭、高鈺鈕扣行はすべて市場内
・空腹虫大酒家
高雄市鹽埕區瀨南街141-7號
営業時間17:00~23:00(食事21:30、ドリンク22:30ラストオーダー)
定休日:月曜・火曜日
FBページ https://www.facebook.com/hungrybugplan/
・婁記饅頭
住所:高雄市高雄市鹽埕區瀨南街137-10號
営業時間:火曜~土曜日14:00~18:30
定休日:日曜・月曜日
FBページ https://www.facebook.com/Loujimt/
・高鈺鈕扣行
住所:高雄市鹽埕區新樂街198-80號
営業時間11:00~17:00
定休日:金~日曜日
FBページ https://www.facebook.com/chowwood
萬先蒸籠店
住所:高雄市鹽埕區五福四路299號
営業時間9:00~21:00
定休日記載なし
FBページ 萬先蒸籠店
銀座聚場
住所:高雄市鹽埕區五福四路260巷8號
営業時間:13:00~19:00
定休日:月~木曜日
FBページ https://www.facebook.com/TakaoGinza
カフェ予約専用URL(日本語あり)https://reurl.cc/4RA3NY
天池冬瓜茶
台湾産の冬瓜を材料とし、添加物等加えずに作り上げている
住所:高雄市鹽埕區新樂街113號
営業時間9:30~21:30
定休日:水曜日
FBページ 天池冬瓜茶
阿財雞絲麵
住所:高雄市鹽埕區壽星街11號
営業時間12:00~22:00
定休日:日曜日
FBページ阿財雞絲麵
小西門燉飯
住所:高雄市鹽埕區鹽埕街43號
営業時間:10:30〜14:30、16:30〜20:00
定休日:記載なし
FBページ https://www.facebook.com/little.west.door
訳者註
冬瓜茶:台湾でポピュラーな飲料のひとつ。一般的に薄切りにした冬瓜と砂糖を火にかけて煮詰めた冬瓜糖をもどして飲むあまい飲み物。
沙茶醬:台湾でポピュラーな調味料のひとつ。魚介ベースの少し癖のあるソース。日本人ファンも多い。
檳榔:ヤシ科の植物。ビンロウ。発音はビンラン。アジア圏では実を噛みたばこのように使う地域も多い。
邱くん:ジェイミーの友人・銀座聚場の邱くんのチームは「叁捌地方生活」といい、高雄鹽埕の30年代と80年代を融合させて伝えていくことを目的に活動している。