台湾のカルチャーを語るうえでかかせないキーパーソンのひとり・田中佑典さん。
日本と台湾をつなぐカルチャーマガジン『LIP 離譜』の発行やカルチャーゴガク、そのほか企画・プロデュースなど精力的に活動を続けています。
東京を中心に活動していましたが、故郷福井に拠点を移し福井への「微住」や「微遍路」など新たな価値を創造中。
そんな田中さんにご紹介ただくのはご自身が台湾で出会った「好きな言葉」です。
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皆さんこんにちは!
生活芸人、台日系カルチャープロデューサーの田中です。
僕は2010年頃から台湾にハマり、台日間の文化交流を盛り上げたいと、これまで約10年間台湾と日本を行き来しながら活動してきました。
その中で僕自身が台湾で出会った大好きな言葉をご紹介します。
言語というのは必ずその国の人の考えが詰まっています。
つまりこれから紹介する言葉には、僕が台湾を好きになった「台湾人らしい考え」が詰まっています。
言葉① 「差不多 チャーブードゥオー」
台湾人はよく口癖のように「差不多(だいたい)」と言います。
最初はルーズだな、適当だなと感じましたが、これこそが日本人と台湾人の違いでもあります。
日本人の生活の基礎と言えば「衣食住」と思いますが、台湾では「衣食住行」と4つが基本です。
この「行」の意味は「移動や交通」ですが、僕はもう少し広い意味で「変化に対する適応力」だと捉えています。
日本は「お変わりないですか?」が挨拶になるほど変わらないことが良いこととされる文化です。
日本人は100に対して100。場合によっては120まで計画してから動き出すのに対して、台湾では計画は50ほどで動き出し、動きながらその都度変化して適応していきます。
これはどちらもどちらで正しいかもです。
しかし、予測不可能な事象がつぎつぎとが起きる時代の中で、計画はほどほどに、だいだいの状態で見切り発車し、
都度適応していく台湾的「差不多」なやり方の方が、これからは良いのかもと思う今日この頃です。
言葉②「次文化 ツーウェンファー」
台湾ではサブカルチャーのことを「次文化」と呼びます。まさに“ネクストカルチャー”。
日本では「メジャー/ポップカルチャー」と呼ばれる大衆文化に対して、どうしてサブカルチャーと区別されるのかに違和感を感じていた中でこの言葉は対照的です。
そのほか日本語ではインディーズと言われる音楽のジャンルを台湾では「独立系」(ドゥリーシー)と呼ばれるなど、どちらの言葉にしても日本語の表現よりポジティブな感じがします。
台湾で次文化を生み出す独立系のアーティストやクリエイターとこれまで多く出会ってきましたが、言葉と同じように彼らこそが台湾の未来の文化を牽引している存在であり、決して「サブ」ではないと感じます。
言葉③ 「大家 ダージャー」
日本語だと家主を意味する「大家」ですが、中国語では「みんな」を意味する言葉。
日本と台湾では内と外の領域、線引きが違うのかもしれません。
日本では内と外の境界線がしっかり引かれていて、『ここは公の場所、ここからはプライベートの空間』という感覚があります。
しかし台湾では公と私の境界線が日本と比べてあいまいで、外でも自分の空間や領域を作るのが上手。
道端で麻雀をしていたり、それこそ夜市などの露店文化もそこから派生したものでしょう。
また仲間や友人との距離感も近く、家族のようにプライベートなことも隠さずに話します。
まさに「大きなファミリー」という字で“みんな”を指しているのだと思うのです。
日本だと例えば、コロナ禍で何か悪いことが起きるとすぐに「誰の責任か?」と線引きをしたがるように感じますが、
台湾ではお互い同じ台湾人という“大家“で一丸となる姿が対照的で、この言葉が思い浮かびます。
言葉④ 「我的菜 ウォーダツァイ」
この言葉に使われている「菜」の本来の意味は「料理/ご飯」なので、直訳すると「私のご飯」。これで“私のタイプ”を意味します。
台湾で意外に思ったことの1つに、台湾人は日本人にくらべるとそんなにお酒を飲まないということがあります。
もちろん個人差もありますが、日本だと特に居酒屋ではお酒に対してつまみというようにお酒がメインになりがちですが、台湾ではそれでもお酒よりも食事の方がメインな感じ。
そういうことが背景にあるのか、タイプを意味する言葉でご飯を意味する「菜」が使われています。
ちなみに広東語で香港人が同じく「私のタイプ」と言う際は「我的茶」になります。さすが飲茶文化!
日本語でもし同じように表現するとなると、「我的酒」になるのでしょうか…。あなたは何派ですか?
言葉⑤ 「生意 センイー」
台湾の食堂などで常連客らしき人が、賑わうお店の店長に「生意不錯捏ー!」(センイーブゥツォネー)と挨拶しているのをよく耳にします。
これは日本語の意味だと「儲かってるねー」のようなニュアンスの表現でしょう。
注目したい言葉はこの中の「生意」の部分。
「生意」は「商売」の意味ですが、「生」きることの「意」味ともとれます。
また同じ漢字で「生き生きとしたありさま」をあらわす言葉でもあります。
似た言葉に「生計」がありますがそれに比べて「生意」からは大きな力を感じます。
「生意」と「生計」。同じく生活を維持するための手段ですが、自分は商売に対してどちらのスタンスなのか常に問いかけています。
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言葉から見る台湾も興味深いです。
台湾の人をよく知ることができ、これからの変化の多い時代をどう生き抜くか考える一助になりそうな言葉たち。
皆様のお役に立ちますように。
2021年7月30日公開
2021年9月6日更新