「菜脯蛋」(ツァイプーダン/ツァイポーダン)という料理はご存知でしょうか。大根の漬物を混ぜ込んだ卵焼きのことで、台湾料理屋の大定番です。
ビールにもご飯にも合うので、お好きな方も多いかもしれませんね。
台湾語で大根の塩漬けを指す単語が「菜脯」。中国語では「蘿蔔乾」(ローポーガン)になりますが、この料理のときには台湾語が使われるのが一般的です。
日本で紹介されるときには、「切り干し大根」と説明されることも多いのですが、千切りにした大根をシンプルに干してつくる切り干し大根に対して、菜脯は、一旦塩漬けにしたものを干してつくります。
確かに千切り大根のような風味はあるのですが、同時にたくあんのような香りもあり、独特の個性が感じられます。
塩漬けにされているので、一旦水洗い、必要に応じて塩抜きしてから加熱調理するのが基本的な使い方。地域や家庭によっては粽(チマキ)に入れることもあるそうです。
今回ご紹介するのは、その「菜脯」の古漬け「老菜脯」(ラオツァイポー)です。
写真の左側が菜脯、右側の真っ黒いものが20年ものの老菜脯です。老菜脯の中でも、10年を越えるものは特に「陳年老菜脯」と呼ばれて重宝されるそう。2023年の夏に、北埔の食料品店で購入してきました。(重宝されるものだけに、お値段もそれなりでした!汗)
見た目だけでなく、香りも新しいものとはまるで違い、醤油のような塩昆布のような、日本の食に慣れ親しんだ私たちにとっても懐かしく親しみのある香りがします。
そして、その老菜脯を使った定番料理がこちらのスープ。鶏肉と一緒に煮込んだ「老菜脯雞湯」(ラオツァイポージーダン)です。老菜脯の色がそのままスープに溶け出して真っ黒ですが、食べるとしみじみと懐かしい、そしてなんとも深い味わい。
数十年の時を経て再び水分を含んだ菜脯は、やわらかくも程よい歯ごたえ。老菜脯自体に塩気と旨味があるので、調味料はほとんど使わずとも抜群に美味しいスープが仕上がるのも素晴らしいです。
スープの他、老菜脯は民間薬のようにも使われていたようで、体調の悪いときに直接お湯を注いで飲んだりするそうです。日本の梅干しとも通じるものがありますね。
5年前(コロナ直前ですね!)の台湾旅行中には、天日干し真っ最中の大根を見ることができました。切り干し大根よりは太くカットされていますね。どちらかというと割干し大根に近いサイズ感でしょうか。
このとき干されていたものが、塩漬けして作る菜脯なのか。シンプルな干し大根(というのも存在します)なのかは定かではないのですが、いずれにしてもたくさん取れた農作物を大切に保存し、長く美味しく、さらにはより価値あるものへの変化させていくための生活の知恵。
干し上がった大根を、将来の、場合によっては数十年後、次世代の糧にするのだと考えると、過去から未来へ、途切れることなく続く生活への真摯な眼差しを感じます。
老菜脯を使ったお料理に出会うのは菜脯蛋ほど簡単ではないかもしれませんが、機会があればぜひ一度口にしてみてください。優しさと力強さを同時に感じられる味わい、好きになる方はきっと多いはずです。