朝、作業のために農園へ向かいます。
山道に入ると、辺りにはゆっくりと霧が立ち込めてきます。
車を走らせ標高が上がっていくと、やがて霧の層を抜け、眼下には雲海が広がります。
車を降りると、ひんやりとした山の空気とともに、森の中から様々な鳥の声が響いてきます。
季節ごとに違った花の香りを含んだ風が吹き抜け、その空気の中で一日の作業の準備を始めます。
台湾で暮らし始めてから、こうした日常の中に、日本にいた頃とは少し違う心地よさを感じるようになりました。

朝、花音珈琲農園から見た風景。
今回は、実際に台湾で暮らす中で感じた文化の違いや、コーヒーを通して見えてきた台湾の魅力についてお話ししたいと思います。
台湾で感じた、人との距離の近さ
まず強く感じたのは、人との距離の近さです。
台湾では、初対面でも自然に会話が生まれます。
特に外食文化が根付いていることもあり、日々の食事の中で店員さんとのやり取りが生まれる機会が多くあります。
私が日本から来たとわかると、
「日本のどこから来たの?」
「私も日本に行ったことがあるよ」
と気軽に話しかけてくれる方も少なくありません。
私はまだ中国語を流暢に話せるわけではなく、聞き取れないことも多くあります。
それでも台湾の方は、多少言葉が拙くても気にせず、会話そのものを楽しもうとしてくれる印象があります。
台北に住んでいた頃は、毎朝のように近所の屋台へ朝食を買いに行っていました。
最初は翻訳アプリを使わないと注文も難しかったのですが、通ううちに「今日はこれがおすすめだよ」と声をかけてもらえるようになりました。
気づけば、おすすめのお店を教えてもらったり、片言で雑談をしたりするのが日課になっていました。
最初はうまく言葉が出てこないことに緊張していましたが、そうしたやり取りを重ねるうちに、自分自身も少しずつ肩の力が抜けていきました。
完璧に伝わらなくてもいい。
まずは関わろうとする。
そんな空気感に、何度も助けられてきたように思います。

農園のある魚池郷の隣町埔里の市場 お店の人とのやり取りが生まれるスタイル
コーヒーの現場にもある「近さ」
こうした人との距離感は、コーヒーの現場にも表れているように感じます。
台湾では、ロースター、生産者、お客さんの距離がとても近く感じられます。
実際にロースター自身が農園へ足を運び、生産者と直接話をしながらコーヒーづくりに関わっているケースも多くあります。
花音珈琲農園にも、台湾各地のロースターが頻繁に訪れます。
時には日本やアメリカなど、海外からロースターが来ることもあります。
農園のカフェスペースでコーヒーをテイスティングしながら、
「今年は収量は減ったけれど、全体的に品質は良くなっている」
「このロットはトロピカルフルーツのような風味が強いですね」
といった会話が自然と始まります。
農園ごとに作り方や考え方も異なるため、同じ台湾コーヒーでも驚くほど個性があります。
その背景を知った上でコーヒーを味わう文化が、台湾には根付いているように感じます。
また、台湾ではコーヒーをきっかけに実際に農園を訪れる人も少なくありません。
都市部から産地までの距離が比較的近いため、「飲んで終わり」ではなく、その先の風景や人への興味につながりやすい環境があります。
こうした距離の近さも、台湾コーヒーの大きな魅力の一つだと思います。

コーヒーの乾燥工程の様子
農園で働きながら見えてきたこと
私自身、現在は農園で働きながら焙煎も行っています。
その中で、生豆がどのように育ち、どのような意図で精製されているのかを、日々すぐ近くで見ることができる環境にいます。
同じように作業をしていても、天候や乾燥の進み方によって香りや味わいが変わることがあります。
農園で日々その変化を見ていると、コーヒーづくりは本当に繊細な積み重ねなのだと感じます。

コーヒーが、人をつないでいく
台湾での暮らしを通じて感じるのは、コーヒーが単なる飲み物ではなく、人と人をつなぐ存在として自然に根付いているということです。
言葉が完璧でなくても、文化が違っていても、生産地から一杯のコーヒーに至るまで、コーヒーを介して関係が生まれていく。
その距離の近さこそが、台湾の大きな魅力の一つなのだと感じています。
台湾に来てから、生産地から一杯のカップに至るまで、多くの人の存在を以前よりずっと近く感じるようになりました。
次回は、そんな台湾コーヒーの特徴や多様な味わいについて、もう少し掘り下げてお話ししたいと思います。
